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NMR法による生体高分子の構造解析
 
磁気双極子モーメントを持つ原子核が磁場中に置かれると、一定のエネルギー差で複数のエネルギー状態を持つようになります。このエネルギー差に対応する周波数(ラーモア周波数)の電磁波と原子核の磁気双極子モーメントが共鳴することを利用した分光法が核磁気共鳴分光法(NMR法)です。同じ原子核であれば、磁場が強くなるほどエネルギー差は大きくなり、測定の際の感度は向上します。NMR法が適用可能な最も重要な原子は1Hであり、生体物質の解析にも広く用いられています。
ラーモア周波数はその原子の種類によって大きく異なりますが、同じ種類の原子でもその原子の化学環境(化学結合や原子の周囲の環境)によって少しずつ異なります(化学シフト)。この違いを利用して、共鳴シグナルを分離し、帰属することが可能です。化学シフト値そのものが意味を持ち、なおかつ、複数の共鳴シグナルの相関を測定することにより、対応する原子間の化学結合や距離の情報を得ることが可能です。
1Hのみでは分離・解析が難しいタンパク質などの場合においても、13Cや15Nといった安定同位体原子を対象試料に導入することによってNMR法を用いることができます。分子量2万程度までであれば、十分な感度で測定を行い、精度よく立体構造を決定することが可能です。しかしながら、分子量がそれより大きくなると、シグナルが重なったり、線幅が広くなったりするために、解析が非常に困難になります。近年、2Hの導入によるスペクトルの単純化と線幅の改善、緩和の交差相関を利用した測定法などにより、NMRの適応可能な分子量は飛躍的に伸びています。
翻訳因子構造解析研究ユニットは、NMR施設と連携しており、NMR法のためのタンパク質試料の調製(大腸菌を用いた安定同位体標識試料の調製、「メチル基のみ」などの特殊なパターンで安定同位体標識される試料の調製など)をはじめ、測定法の選択(目的を達成するための測定法の選択および新しい測定法の考案)、実際の測定(測定のセットアップなど)、解析(データ処理からスペクトル解析、立体構造計算)に至るまで、さまざまなノウハウの蓄積を有しています。