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理化学研究所ライフサイエンス技術基盤研究センター RIKEN Center for Life Science Technologies

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研究成果

ビタミンB1とビタミンB1誘導体の心臓への集積の画像化に成功

健康・病態科学研究チームの野崎聡研究員、渡辺恭良チームリーダー(センター長)、標識化学研究チームの馬渡彩技師、土居久志チームリーダーらと武田コンシューマーヘルスケア株式会社 製品開発部(研究開発当時 研究開発部)の二宮伸二部長(当時)らの共同研究グループは、炭素の放射性同位体(炭素11:11C)で標識したチアミン(ビタミンB1)とフルスルチアミン(ビタミンB1誘導体)の生体ラット内での薬物動態をPET(陽電子放射断層画像撮影法)で可視化し、投与後の心臓での集積がチアミンとフルスルチアミンでは大きく異なることを発見しました。

ビタミンB1は物質として初めて報告されたビタミンであり、1910年、理研の設立者の一人である鈴木梅太郎博士により、米糠(こめぬか)の抽出物としてオリザニン(現在の化合物名はチアミン)と命名されました。ビタミンB1は脚気の予防・治療薬であり、また疲労改善などの有効性も着目され、服用に適したビタミンB1の誘導体が多数開発・発売されてきました。なかでも武田薬品が1961年に発売したビタミンB1誘導体であるフルスルチアミンは、商業的に大きな成功を収めています。 

一方、ビタミンは生物学的に重要な生体分子であるにも関わらず、摂取したビタミンやその誘導体が体内のどこに集積し、どのように効果を発揮するのかなど、個体レベルでの作用機序については不明な点が多く残されています。

CLSTの標識化学研究チーム 馬渡彩技師、土居久志チームリーダーらは、これまでにチアミン(ビタミンB1)とフルスルチアミン(ビタミンB1誘導体)を炭素の放射性同位体(炭素11:11C)で標識する有機合成法の確立に成功しています。本研究では、この技術を応用し、ラット体内、特に心臓での[11C]チアミンと[11C]フルスルチアミンの集積について検討しました(図1)。

ラットを用いたPET実験の結果、[11C]チアミンはほとんど心臓へ集積しないのに対し、[11C]フルスルチアミンは投与直後から高い集積が認められました(図2)。また非常に興味深いことに、心臓に集積した[11C]フルスルチアミンはただ集積しただけでなく、エネルギー代謝に利用されるチアミン-2-リン酸という形に変換されていることも判明しました。

フルスルチアミンは、「ビタミンB1の欠乏又は代謝障害が関与すると推定される心筋代謝障害」の医薬品効能を有しています。今回の知見はそれを裏付けるものであり、今後、健康時または疾患時のヒトでの体内動態をPETで観察することで、疲労をはじめとしたチアミンの関与する多くの疾患の病態解明にこの技術が活用されることが期待できます。

 

本研究成果は米国の科学雑誌『Molecular Imaging and Biology』(3月20日付け)に掲載されました。

原論文情報:

Nozaki S, Mawatari A, Nakatani Y, Hayashinaka E, Wada Y, Nomura Y, Kiytayoshi T, Akimoto K, Ninomiya S, Doi H, Watanabe Y.
“PET imaging analysis of vitamin B1 kinetics with [11C]thiamine and its derivative [11C]thiamine tetrahydrofurfuryl disulfide in rats”
Mol Imaging Biol (2018).  doi: 10.1007/s11307-018-1186-y

https://doi.org/10.1007/s11307-018-1186-y
https://link.springer.com/article/10.1007/s11307-018-1186-y
http://rdcu.be/JvWc

 

*)こちらの成果については、以下の論文をご覧ください。

Doi H, Mawatari A, Kanazawa M, Nozaki S, Nomura Y, Kitayoshi T, Akimoto K, Suzuki M, Ninomiya S, Watanabe Y.
Synthesis of 11C-Labeled Thiamine and Fursultiamine for in Vivo Molecular Imaging of Vitamin B1 and Its Prodrug Using Positron Emission Tomography
J Org Chem. 2015;80(12):6250-8. doi: 10.1021/acs.joc.5b00685
https://pubs.acs.org/doi/10.1021/acs.joc.5b00685

 

※(以下共同研究グループ)

理化学研究所 ライフサイエンス技術基盤研究センター 生命機能動的イメージング部門
健康・病態科学研究チーム

  • チームリーダー 渡辺 恭良(わたなべ やすよし)※CLSTセンター長
  • 副チームリーダー 和田 康弘(わだ やすひろ)
  • 研究員  野崎 聡(のざき さとし)
  • テクニカルスタッフ 中谷 友香(なかたに ゆか)
  • テクニカルスタッフ 林中 恵美(はやしなか えみ)

 
標識化学研究チーム

  • チームリーダー 土居 久志(どい ひさし)
  • 技師 馬渡 彩(まわたり あや)

 

武田コンシューマーヘルスケア株式会社
製品開発部(研究開発当時 武田薬品工業株式会社 研究開発部)

  • 二宮 伸二(にのみや しんじ)
  • 北吉 正人(きたよし まさと)
  • 秋元 浩二(あきもと こうじ)
  • 野村 之博(のむら ゆきひろ)

 

図1:<sup>11</sup>Cで標識したフルスルチアミンとチアミン図2:図2: [<sup>11</sup>C]フルスルチアミン、[11C]チアミンの心臓での集積の違い

=関連プレスリリース=

 

関連研究室

CLSTは、2018年4月1日からの理化学研究所第4期中期計画により、3つのセンターに改組されました。